2014/09/14

茅野日誌 第1回


「じゅんじゅんさんに是非やってもらいたいプロジェクトがあるんです。」
と茅野市民館のOさんから連絡が来たのはベルリンにいる時だった。

茅野市民館には以前に一度だけ来たことがある。京都のモノクロームサーカスと共に合宿形式のWSを行なったのだ。もう56年前になるがここを設計した建築家とそのゼミの学生等も交えてにぎやかでたのしいWSだった。
 

ベルリンから帰国後すぐにバスで茅野に向かった。「障がいを持った人やその周りの人たちと共に何か企画を出来ないか」というのが趣旨だった。何をするかはまったくの自由というか白紙の状態でこちらに託された。取りあえず何か考えますといってはみたものの全く初めての世界でピンと来るようなアイディアも出ないまま再びこちらを訪れたときに「せっかくなら滞在させてもらえませんか?」と切り出してみた。「限られた期間で行ったり来たりして制作するのは限界があるし、なによりもリサーチに時間がかかる。むしろリサーチこそが是非必要で、それならばアーティスト・イン・レジデンスということで34ヶ月ほどこちらに実際に住んでそういった人たちとゆっくりつきあいながら何が出来るか考えさせて下さい。」と提案した。
しかし滞在しますとはいったもののそんなに長期の滞在をまかなえる予算はもちろんない。舞台芸術関係の予算の厳しさは自分も痛いほど身にしみている。
そこで僕は茅野で働きながらリサーチをしてみようと目論んだ。それも出来れば福祉関係の施設で働ければ取材もかねて一石二鳥だし潜伏取材みたいでかっこいいじゃん!といつものように軽い気持ちで思いつき、ちょうど市民館の職員のご家族のお家が丸々一軒空き家になっていてそこに住めるという事情もあり、以前から田舎暮らしに憧れていたことも重なって長期間滞在してじっくりやらせてもらうことになったのだ。
そんな経緯で始まった今回のプロジェクトは雨男の僕が雨を連れて茅野にやってきた201491日、漠然としたままながら本格的にスタートしました。

滞在先にて食料を買い込む


「最初は市役所の人にご挨拶に行きましょう」
ホントに紙に書いて持ってきた!
取り合えず市役所の担当の方にご挨拶をし、あわよくば何か仕事を頂けないかお伺いを立ててみようとなり、Oさんが市役所に連れて行ってくれる。
ええい!見せてしまえ!時給はこんな感じです。交通費付き
福祉担当のMさんはひょうひょうとした印象でこちらの話を「ふんふん」と聞いている。聞けば僕と同じ年で自分も普通に働いていたらこんな感じだったんだろうかと別の想像がふくらむ。これからよろしくお願いします、という挨拶とともに何か仕事ないですかね?とさっそく大事なお願いをする。しかしながらそんなに都合の良い働き口があるわけでもなく「作業所の仕事ねえ、、、」と難しそうな様子。そうだよねえ。そういう障がい者のための作業所って実際に利益のためというよりまさに福祉的な意義が多分にあって機能しているわけで普通のバイトのようにスタッフを募集できるような規模でもない。ぶっちゃけ儲かっているわけではないだろうし。いきなりの現実にぶつかり早くも暗雲立ちこめていると、ややあって「何でもいい?」とひとつもってきてくれた。なんと白樺湖のボート乗り場の仕事!ボート乗り場で観光客をボートに乗せる仕事ね。何もないよりはとお礼を言ってその仕事をありがたく頂く。ひえええ!バイトだあ!東京の感覚でいうと安い賃金だがそれも含めて体験だろう。しかしボート乗り場の仕事ってそれはそれで楽しそうだしな。


その後社会福祉協議会Kさんとその同僚の方々に会う。
明るく元気な人で人懐っこい印象はまさに福祉の現場の人だなあと思わせる。ここでもプロジェクトの紹介をしつつ何か仕事ありましたらよろしくお願いします!と自分を売り込む。市役所の時と同じように「いきなり仕事っていわれても、、、」と困られたあげく、例えば会合とかで一芸見せたりとか出来る?と聞かれる。待ってましたとばかりに「任せて下さいよ!」と営業モードに突入。

幾つか会合や集まりがあるのでそこに組み込めるか考えてみるよ。と前向きな返事を頂く。
第一日目はなんだかリサーチよりも仕事のお願いで終わったような気もするがまあ顔合わせということで。「今度飲みに」という約束もきっちり出来たし関わって働いている人も今回の取材対象なのでいろいろ聞けそうでありがたい。

市民館に帰って今日の成果を報告すると「え、ホントに仕事もらったの?」とかなり驚かれる。初日でまさか仕事がもらえるとは思っていなかったらしい。市民館でもアーティストに仕事を紹介するなんてのは前代未聞らしく(そりゃそうだ)果たしてどうなるんかいなと心配だったとのこと。ま、仕事とはいっても単発でこれ一回で何とかなるものでもないのだけどそれにしても幸先が良いとみんな喜んでくれる。
う〜ん、よちよち歩きをほめられたようで複雑だけどまあいいか。地方で仕事をする、ということの実情に触れたともいえるわけだしね。
僕としても大きなテーマをいきなり鷲掴みに出来るとは思えなかったし何でもそうだけど第一歩目は「踏み出す」ってことに一番のキモがあるわけで。焦ってもしょうがないってのは40歳を越えてから何となくわかってきたのよ!ああ、日々成長してるなあ。

というわけで茅野ビギナーの僕ですがこんな感じで週一回プロジェクトのレポートを上げていきます。これから約3ヶ月の間、よろしくお願いします。